ジヤンダルムを踏まず
画面を見ていても大変な難所であることが分かる。いやはや凄いところを行くものだと初心者みたいに画面に吸い付けられた。
これまでもいくつかこの手の山行番組を見た。そのどれよりも難しいルートであることが分かる。
急峻であり高度感抜群である。「面白いでしょ。高度感たっぷりでしょ」などとガイドが何度も言う。でも「怖いでしょう」とは云わない。
肝心の白石がかなり緊張しているのが分かる。危なっかしい場面もいくつかあった。
北アルプスの縦走路としては最難関のルートだ。これに比べれば外はみなサイクリング道路みたいなもの。
西穂小屋から登り始めて奥穂高岳まで。途中にはエスケープルートが一本しかない。ルートは両足でまたがるような細い尾根。佇立する岸壁に近いルート。正に岩登りの連続。
途中逆スラブ構造という厄介な岩場がある。ここを逆コースで行くのはいやだなあと思ったものだった。高さ3000mに近い高所の急角度の瓦屋根を歩くようなもの。足は滑る、手がかりはないで難所の一つであった。
そこを若いときと云っても中年を過ぎた頃、挑戦した。登攀と云うべきかも知れない。
途中、独標というピークでは折から標柱を建てるお手伝いをした思い出がある。今もその時の標柱が立っている。
そこから先は一気呵成に前に進むしかない。そうしなければ恐怖が先に立つ。
白石は前後をガイドに挟まれて3人連れ。もちろんカメラも2人か。ヘルメットを被りザイルを纏い、カラビナをじゃらじゃらさせて小さな足場を頼りに慎重に一歩一歩登っていく。時に安全確保のためにザイルを使う。
カメラが近く遠く、難渋する様を追っていく。岩稜が凄まじい。あらためてこんな所だったのかと驚く。
ボクは単独である。ヘルメットなし。ザイルなし。もちろん登攀用具なんて何もナシ。ただ黙々と。
天候が幸いした。恐怖感におののきながら無我夢中必至で登ったから足下を見る余裕はない。かえってそそれが良かったか、恐怖感は左程感じなかった。
だがやはり緊張していた。無我夢中だった。
奥穂高岳に着いてほっとした時、なぜか急に猛烈な脚の痛みが出て動けなくなった。
これには参った。途中でなくて良かったと思うものの場所はまだ奥穂高岳の天辺である。
この後は小屋へ下りるだけとはいえ足場の悪いルートを下るのは困難を極める。
単独行に天罰が下ったか。一時はどうなるかと途方に暮れた。
そこでふと来し方を振り返って、眼下に連なる登ってきた岩尾根を俯瞰したとき、ああしまったと思った。
画像中の丸いドーム状の岩塔である。いかにもヨーロッパアルプスを思わせ、誰しもがあの頂を踏みたがった。そこに到るルートに気づかなかったのだ。
とはいえ今さら戻るわけにも行かず地団駄を踏むしかなかった。ましてや脚の痛みがある。それは適わず何とも悔しかった思い出がある。
杖にすがり脚を引きずりながら何とか時間を掛けて奥穂高岳小屋にやっとの思いでたどり着いた。 その晩初めて山小屋の臨時診療所のご厄介に。シップをする程度のことしか出来るはずもないが、それでも随分と頼りになったと今も胸に残っている。
白石らももちろん無事登頂に成功。彼らも見ている方もあの難所を越えたかと万感胸に迫るものがある。ボクの方は特にだ。
by natsuman | 2016-10-26 18:01 | 自然環境 | Trackback | Comments(0)