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寝てても霧は分かる 6/4

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 さすがにぐっすり寝ている深夜ではムリだが、明け方の身体が起床ムードになってきた頃なら、海に霧が出ているかどうかは外を見なくても分かる。
 なぜなら、そういうとき、沖行く商船がくぐもった汽笛を鳴らすから。普通、霧笛という。
 だが霧笛は本来陸上にある灯台が鳴らすもの。船はあくまでも汽笛で、別名霧中信号とも云う。
 汽笛というからには昔は蒸気で鳴らした。スチームを使うレシプロ船やタービン船なら蒸気があるが、ディーゼル船では肝心の蒸気がない。この場合は圧縮空気を使う。
 だが小型船では汽笛のためだけに大きな動力装置を持てない。何れにしても汽笛が使える船は大きな船だ。
 水産実習船(499t)が生徒を乗せて航海に出るときポーポーと鳴らす音が響いてくることがある。があれはエアホーンだ。汽笛と云うには重厚さに乏しい。
 更に小さい船だと電気サイレンなどの、何とも船に似あわない音を流すことになる。
 消防艇ではあるまいし汽笛というからにははやり超低音の、しかも長く余韻を引く重厚な音が似つかわしい。
寝てても霧は分かる 6/4_d0013739_11283580.jpg 映画”アラビアのロレンス”の中で、ロレンスが砂漠を横断してスエズ運河に到るシーンでは、突如砂丘の向こうから”ぼー、ぼーっ”と汽笛が鳴り響きわたり、運河に達したことを一瞬に悟らされる。 もしあれが”汽笛”でなかったら・・・・笑っちゃいます。

 レーダーがまだなかった頃、つまり帆船の時代から霧は船にとって暴風と凪と共に難敵だった。
 なにしろ周りが見えないから進むも引くもお手上げ。総員で見張りを立て、岩礒にのし上げないよう、他船と衝突しないようにと、そろそろと進むしかなかった。
寝てても霧は分かる 6/4_d0013739_11293483.jpg 動力がない時代は、ここに船が居るぞと点鐘を鳴らした。後に大きなふいご式の手動フォーンを鳴らすようにもなった。
 それらは今も最低限備えなければならない船舶用備品として、どんな船にも搭載が義務づけられている。
 霧の海を行く船の上は静かだ。みな押し黙って何か音が聞こえないかと必死に耳を傾ける。
寝てても霧は分かる 6/4_d0013739_11295593.jpg 今はレーダーがある。一寸先見えない霧の中でも、周囲の障害や他船の存在はもちろん、行動も分かる。聞き耳を立てなくても良くなった。
 だがかえってレーダーをあてにして見張りを疎かにし、乗り上げや衝突を起こす海難は相変わらずなくならない。
 今朝も一定のリズムで汽笛が鳴っていた。もしそれが短くけたたましくなったら事故が起きた証拠。
 今朝は単調な長ーい汽笛の繰り返し。ああ海は静かだし霧だと分かる。案の定、城山から見下ろした東京湾口は霧の海だった。

by natsuman | 2016-08-04 10:01 | ふねの舘 | Trackback | Comments(0)  

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