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ネジは工業技術の要諦     4月10日

 ここに一本の鉄の管とネジがある。どちらも江戸時代の製品である。もちろん機械製品ではない。どうやって作ったか大凡は分かっているが細かなところでは今も謎が残る。ネジは工業技術の要諦     4月10日_d0013739_9465794.jpg これ江戸期の鉄砲鍛冶が手作りした火縄銃の、銃身後部と、その管を塞ぐ尾栓という部品である。両者はネジによってしっかりと勘め合される。もしこれがいい加減であったり弱ければ発射の際、この尾栓が後に吹き飛び、射手は大けがをすることになる。
 物理学の法則により「作用あれば反作用あり」である。弾丸を前に飛ばす作用と同時に後にも強大な作用がある。よく云う反動である。それをまず受けるのがこの尾栓だ。
 現代の鉄砲作りとは異なり、江戸時代まで、鉄砲鍛冶はまず始めに鉄の筒を作る。鉄の棒に穴を開けるわけではない。分かりやすく云えばパイプ作りである。したがって後からこのパイプの一端を閉じる方策を講じなければならない。それが尾栓である。
 しかもこの尾栓、時には中を掃除したりするために脱着可能でなければならない。それを可能にするのはネジ以外に考えられない。
 今もネジは科学工業技術の要諦である。これなくして今日の分明も文化もあり得ない。工業技術の大本は、この火縄銃の銃尾に使われた一個のネジにある。
 天文12年(1543)、種子島へ鉄砲が伝来した。と共にネジも日本に到来した。今も教科書に載る鉄砲伝来の歴史を学ぶ意味は、鉄砲という道具よりも、このネジに着目すべきなのである。
ネジは工業技術の要諦     4月10日_d0013739_947213.jpg 今に残る古い骨董品の火縄銃は、多くが尾栓は固く錆び付き、でなければガタガタだ。画像の尾栓ネジもかなり擂り減りガタついている。火縄銃は所詮道具である。その道具の機能を保全するためには何とかこれを修復しておきたい。
 しかしこのネジ、手作りである。現代技術による機械加工のネジではない。ネジはネジだが、ネジ型もピッチも今の規格には全く合わない。となると機械では作れない。オスの方の尾栓はヤスリで何とか時間を掛けて加工できても、細い筒の中のメスネジはどうしようもない。あらためてネジを切り直すしか方法がない。お手上げである。昔の日本人ならどうしただろうか。

by natsuman | 2008-04-10 09:49 | 教育学習 | Trackback | Comments(0)  

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